演劇やジャズとのコラボレーションで知られるイギリスの気鋭のヴァイオリニスト、ダニエル・ホープ、そしてハンブルク出身の気鋭ピアニスト、セバスティアン・ナウアーが巨匠ロジャー・ノリントンと共演した注目盤。その結果は目を見張るほど素晴らしい。下手をすると元気がいいだけに陥りがちなピアノ協奏曲第16番第1楽章が、これほど面白く刺激的に、しかも豊かなニュアンスをたたえながら演奏されたことがあっただろうか。溌剌としたオケに真珠が転がるような典雅なピアノが絡む。軽く鋭いダイナミクスを用いながらの弱音でのくすぐるような音色には華麗な効果がある。ピアノのふとした表情の暖かさは抜群。第2楽章の優雅で憂いのある風情もナウアーはこの上なく繊細に描く。浮き立つような第3楽章の木管の戯れも快適そのもの。
知られざる大傑作、ヴァイオリン・ソナタK.379の冒頭のアダージョの大きな呼吸に満ちた気品あふれる開始は最高の瞬間だ。この開始一つとっても、ナウアーは素晴らしいピアニストだと実感できる。短調の嵐が吹き荒れる続くアレグロも、抑制と情熱に満ちている。遠い夢の国からの便りを思わせる第2楽章の変奏は、モーツァルト最高の変奏曲のひとつに違いないと確信させる。曇りガラスの向こうの、夢の中の出来事のように美しい。
ピアノとヴァイオリンのための協奏曲は、青年期、マンハイム時代のモーツァルトの意欲作だが120小節分のフルスコアだけが残る未完成作品。滅多に聴けない作品だが、堂々としながらも楚々とした愛らしさもあり、モーツァルトを聴く歓びで聴き手の心をいっぱいにしてくれる名作である。ここでのフィリップ・ウィルビーによる復元版は、ヴァイオリン・ソナタK.306に未完成作との強い関係が認められるという分析に根拠をおいたもの。ウィルビー自身による解説も興味深い。モーツァルト好きなら、必ず満足するに違いない名盤として、強くオススメしたい。(林田直樹)