エディターレビュー
昭和30年代、かつて大本営参謀中佐だった壱岐(仲代達矢)は大手の近畿商事に迎えられ、FX(次期使用戦闘機)の選定と買い付けをめぐってのライバル商社や政界を巻き込む黒い霧の中に身を投じていく…。 山崎豊子の同名小説を“赤いセシル・B・デミル”の異名を取った巨匠・山本薩夫監督が映画化。戦争を放棄したはずの日本で、あたかも戦争のような商社間の対決が繰り広げられていくさまが、3時間を越える長尺をものともせずに一気呵成に、そして明確に描かれている。なお本作の撮影中、原作のモデルとなった疑惑のロッキード事件が表面化したことや、政界の闇を描いたことから代議士のクレームがついて一部カットを余儀なくされるなど、作品そのものの出来を超えたところでも大いに話題になった。その意味でも真の問題作と言えようが、いずれにせよ、1970年代まではこうした現実の政治経済とオーバーラップさせる意欲的な社会派娯楽映画がまだ日本でも作られていたのだ。(的田也寸志)
カスタマーレビュー
何が壱岐正を防衛商戦に向かわせたか 不毛地帯 [DVD] 仲代達矢
11年のシベリア抑留生活の後、壱岐正は防衛庁の誘いを断り近畿商事繊維部で働き始める。妻子の安堵した表情はその後の葛藤の伏線だ。壱岐は社長の策略でエドワード空軍基地を視察した際、陸軍の「戦友」川又空将補と出会う。次期戦闘機には東西商事・グラント社が優勢であったが、川又は欧米各国が採用しているラッキード社のF104を押して、防衛庁内で微妙な立場に立たされていた。川又が左遷されそうだと新聞記者から聞いた壱岐は、自社の押すラッキードF104を調達させるべく、大本営参謀時代の人脈をフルに活用し始める。妻(八千草薫)や娘(秋吉久美子)の懇願をよそに、壱岐は仕事の鬼、実弾攻撃をものともしない商社マンとなっていく。
この映画の見どころは、壱岐正がどのようにして心変わりしたのか、そこであろう。防衛庁に近づくこと、大本営参謀としての人脈を使うことはしないことを彼は心に決めていたはずである。それが変心したのは、ひとえに川又との友情が理由とされている。ここに物足りなさを感じるのは私だけであろうか。抑留中家族の面倒をみてくれた川又への恩義はあるだろう。しかし、それだけで自らがシベリアで誓った信条を曲げることができるだろうかというのが率直な疑問である。
なお、壱岐正のモデルは瀬島龍三であり、近畿商事は伊藤忠商事であることは衆知のとおりであるが、事実との相違を若干付け加えておく。
1.グラマン(グラント)の代理店は伊藤忠商事である。
2.第一次FXに内定していたのはグラマン=伊藤忠商事である。
3.第一次FXに決定したのはロッキードであり、代理店は丸紅である。
4.芦田二佐(小松方正)の見積価格漏洩は、1959年の防衛庁データ流出事件に想を得たと思われるが、このとき流出したのは地対空ミサイルボマークの性能データである。
(以上沈黙のファイル―「瀬島 龍三」とは何だったのか 新潮文庫を参考にした)
原作に力負け 不毛地帯 [DVD] 仲代達矢
本作は、山崎豊子の『不毛地帯』を映画化したものである。山崎豊子の作品は、最近でも「白い巨塔」や「女系家族」、「華麗なる一族」などがテレビドラマとしてリメイクされ、大変話題となったが、本作も古いながらも見ていて思うことはたくさんあった。
物語は、元大本営参謀の壱岐正が、近畿商事に入社するところから始まる。陸軍のエリート街道を突っ走ってきた壱岐正。しかし、彼の人生もアジア・太平洋戦争の敗戦によって一変した。アジア・太平洋戦争の末期、大本営の停戦命令を関東軍に伝えるため、満州へと渡った壱岐は、そこで日ソ中立条約を一方的に破棄して攻め込んできたソ連軍に捕えられ、多くの将兵らとともにシベリアに抑留される。そして過酷な収容所の生活に耐え、帰還した壱岐は商社マンとして第2の人生を歩み出した。しかし、徐々に壱岐は、次期主力戦闘機の選定をめぐる「黒い空中戦」へと巻き込まれていくことになるのである。
基本的には、長時間の作品であるにもかかわらず、一気に見てしまえる内容であった。しかし、やはり原作に力負けしていると言わざるを得ない。もちろんそれだけ原作が大作であり、優れているということでもあるが、壱岐のシベリア抑留時代が割愛されすぎ、それを境とする壱岐の心身にわたる変化が十分に描けていない点は大変気になった。また古い映画にはありがちであるが、例えば100式司偵を適当な飛行機で代用するなど、細部へのこだわりが見られず、その時々の状況を完璧に作り出せていないところも残念である。
もちろんそれでも原作のストーリーの要所は押さえており、CGのない時代の作品であることも鑑みれば、十分評価に値する内容ではあった。しかし、原作のファンとしては、やはりより完成度の高いものを期待してしまう。是非、また他の山崎作品などと同様に本作もリメイクされることを強く期待したい。
タイムリーだった企画 不毛地帯 [DVD] 仲代達矢
ちょうどこの映画が封切られた当時は世の中「ロッキード事件」で大騒ぎであった。ジャストタイミングの企画だったと記憶している。山本薩夫監督も「11PM」などに出演して、映画の宣伝に努めていた。
さて、「戦争と人間」「華麗なる一族」「金環蝕」それに本作と魑魅魍魎の世界が展開される。ライバル社の飛行機が墜落してテストパイロットが死亡したのを「Good news」として、小躍りして喜ぶ連中の奇怪な様子などはその典型だ。
ただ、やはりナレーションが過剰なのと主役の壱岐の苦悩があまり出ていなかったのは少し残念な気はする。原作からすると途中で終わっているのはまだ撮影当時はまだ完成されていなかったのではなかろうか。これは「白い巨塔」と同じ事情ではないだろうか。
山本監督作品は自らの旧作からの画面転用をよくやっているが、ここでもそれが行われている。まずタイトルの雪原は「戦争と人間・第二部」の休憩直前のシーンであるし、ソ連軍の進攻のシーンは「戦争と人間・完結篇」のノモンハン事件のシーンからの転用である。
国防商売のウラ舞台 不毛地帯 [DVD] 仲代達矢
防衛省の事務方トップが防衛専門商社から200回以上ものゴルフ接待を受けるなど、「第二のロッキード事件」ともささやかれる一連の防衛疑獄が発生しているが、その原点を垣間見せてくれる作品がこれだ。
原作は、実話に想を得た迫真の小説で定評のある元毎日新聞記者、山崎豊子。公開当時は原作未完のため、前半部のエピソードのみで映画化されているが、主人公の元大本営参謀、壱岐正の生き様を追うというよりも、次期主力戦闘機はラッキード(ロッキード)かグラント(グラマン)かという、防衛ビジネスのウラ舞台を体感する視点で観ると、これはこれで非常に完成された映画だと感じられるはずだ。
映画冒頭に「特定のモデルはいない」と明示されるが、壱岐は先日他界した瀬島龍三氏がモデルだとされているし、近畿商事とは伊藤忠、首相も岸信介そっくりだ。元海軍航空参謀で、戦後空幕から参院選に出馬した源田実らしき「原田勝」や、背中だけ登場する右翼の大物らしき人物が児玉誉士夫など、それぞれ「これはあの人だな」と察しがつくのが楽しい。
瀬島はシベリア抑留時代、ソ連と何らかの秘密取引をしたことが疑われているが、劇中、防衛庁長官の口を借りて「最近、日本の防衛機密がソ連や中国にもれているのは、近畿商事のジャカルタ支店あたりを介してではないか」という、さりげないセリフを聞き逃してはならない。
観ている内に、現在問題になっている防衛疑獄の隠された絵が浮かんでくる。そう、防衛ビジネスの図式は半世紀前から何も変わっていないことに気づくはずだ(そういえばヒゲの隊長は、源田実そっくりの立場だ)。今後、捜査は元防衛庁長官など、有力政治家にまで及ぶだろうが、新聞やテレビのニュースを見る前に、これでよくおさらいをしておこう。
蛇足ながら米国の航空機関連企業はユダヤ財閥が仕切っているとされる。右に刀を売り、左に盾を売り、左に銃を売れば、右には防弾チョッキ。武器を買うカネがなければそれも貸す、そういう国際戦争ビジネスの末端に、米国の事実上の高度自治州である日本が、都合のいいように組み込まれていることにまでに思いをいたせるなら、このDVDは安い買い物だ。
ちょっと残念 不毛地帯 [DVD] 仲代達矢
原作を先に読んでから、この映画を観たのですが、181分という長い映画でありながら、物語は原作の1/4程度で幕を引きます。それだけ原作が大作であることは分かるのですが、この映画から「不毛地帯」に入った人はちょっと尻切れトンボ的な印象を持ってしまうかもしれません。何より壱岐正という人間の生き様はまさにこれからというところで終わってしまうので、この段階での幕引きだと、壱岐正という人物に不信感を抱いてしまう人もいるだろうなと思いました。この物語の核は、壱岐正という男が自己との対話を逃げずに繰り返し、常に自身に誠実であることの素晴らしさを問うているものだと思うので、後半部を知らない方は、ぜひ原作を読んで頂きたいなと思います。
なお配役や設定については、本当にドンピシャという感じで、小説の雰囲気そのままを映像化できていて、さすがは社会派の巨匠・山本薩夫監督だと思います。
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