塩田美奈子は、歌の上手い人ですね。プロのプリマドンナですから当たり前なのですが、クラシック歌手のベルカントでこのような昭和の歌謡曲を歌われると大抵興醒めになりますが、このアルバムは違いましたね。新鮮な響きと軽い驚きを持って受け入れました。
発声も素直で、中音域を巧みに使用しながら、ひばりとは全く別の表現方法を駆使しながら、昭和の名曲の数々を違和感なく綴っています。企画の勝利ですし、塩田美奈子の実力を如何なく発揮したアルバムなのは間違いありません。
しっとりとした情感が感じられ、時折胸に迫る表現を聞くに連れ、美空ひばりファンもこれなら満足する出来映えだと思いました。歌詞がまず明瞭で、雰囲気も歌詞の意味も伝わってきます。
と普通なら手放しで評価しますし、それで良いのですが、☆5つの評価は当然として、それでも美空ひばりは偉大だと、改めて感じてしまいました。
無い物ねだりで申し訳ないのですが、残念ながら泣けないですね。胸に切々と迫る情感の高ぶりを押さえるひばりの歌唱というものには届いていない、と感じました。ひばりは別格、という言葉で表わしたくはないのですが、昭和という時代を生き抜き駆け抜けた歌姫の凄みという領域に達していないとも言えるでしょう。
少し辛口に書きすぎたかもしれません。塩田美奈子のこのアルバムの価値は高く、名唱なのは定評通りです。榊原大のアレンジした「津軽のふるさと」「リンゴ追分」や「ひばりの佐渡情話」「さくらの唄」などは絶品です。哀愁が漂い情感もあり、昭和という時代すら上手く表現出来ているわけですから、悪いはずがありません。日本抒情歌曲集としての色彩も帯びており、コンサートでの拍手喝采が目に浮かぶような作品集だと思いました。
美空ひばりの歌は、たくさんの歌手が歌っています。それも、歌の巧い歌手が、歌うことが多いので、それはそれで楽しめるんですが、ともするとモノマネに終わっていることがしばしばです。
その点、塩田美奈子はひばりの歌い方とはかなり異なった独自の歌唱法で歌い上げています。と言っても、オペラ歌手のベル・カント唱法ではありません。もっと、さらりと歌っていますし、ソプラノ歌手なんですがメゾ・ソプラノに近い音域で歌ってくれているので聴きやすくなっています。それに、塩田さんの声が暖かみのある聴きやすい声なので、歌謡曲を歌っても、全く違和感はありません。
このアルバムで注目すべきは「津軽のふるさと」と「お祭りマンボ」でしょうか。「津軽のふるさと」については、方々で絶賛されているとおり、文句なしの名唱です。「お祭りマンボ」は、ドラマ仕立ての曲が得意なのか、明暗のコントラストが鮮やかです。その他「みだれ髪」や「ひばりの佐渡情話」のような難曲とされている歌が聴き応えがあります。ひばりファンの人にも、昭和の名曲を楽しみたい人にも、自信を持ってお勧めします。