映画好きではあるが作り手の事情に疎い自分としては、低予算映画の現場の悪戦苦闘を感じられただけでも充分読んだ価値があった。
「萌の朱雀」の尋常ではない産みの苦しみには素直に感動してしまった。あの映画にそんな舞台裏があったとは。
マイナーなものから何かのムーブメントが起こる時、彼のような無私の激しい情熱を持った人間が牽引車として必ずいるのだと実感。多くの難題にぶちあたり失敗しながらも学び少しづつでもステップアップしている成長物語でもある。
書かれた時期的に、河瀬直美氏との出会い、「萌の朱雀」の製作時の産みの苦しみ、カンヌ受賞、そして結婚がこの本のヤマ場になっている。
しかし文庫版化のあとがきの頃には彼にもいろいろあったようで少し途方にくれている。何かに自分を捧げた人間の数多くが味わうだろう人生での必然的な痛み。本編ではイケイヶな部分ばかりだったのでそのギャップがなおさら痛い。今はもう立ち直っているのだろうか。
手づくり感のある映画が好きなひとにはおすすめです。
映画好きが高じて畑違いの会社に飛び込み、映画プロデューサーとして日本の若手映像作家を育てていく様が手に取るように解り、ある種のグローンナップ小説として捉える事も出来る。一素人が、カンヌ受賞作品のプロデューサーへ・・と成長していく様が面白い。惜しむらくは映画を芸術作品という面で考える傾向にありがちな点で、これもひとつのビジネスだという視点が欠けているような気がする。
氏の現況を考えると映画産業の浮沈の激しさが想起される。出来うるならば、現在の氏の活動、ポリシー、今後の映画ビジネスへの想いなどが続編として出版される事を望みたい。