カスタマーレビュー
成功事例ではなく取組み事例だけど オーケストラの経営学
私自身、クラシック音楽の演奏をしているし、マーケティングも理解している。
しかし、その2つを一緒に考えて、クラシック音楽の経済的自立については考えたことがなかった。この本は、それについて考察していて、様々なオーケストラの事例を紹介していて興味深い。事例のほとんどは、取り組み事例であって、成功事例の域には達してないように思う。
そう考えると、結局、クラシック音楽の経済的自立はやっぱり不可能だとの結論になりそうだが、すくなくとも、その不可能を可能にするための考え方のヒントは与えてくれる本だ。
演奏家としても中途半端、経営学者としても中途半端 オーケストラの経営学
残念ながら、著者には繊細さがないようだ。
例えば、「のだめ効果」という言葉を使うのであれば、『のだめカンタービレ』が出版時点で映画化されていないにも係わらず「映画化もされた」(p.33)などと大間違いをすべきではない。資料の原典に当たっていないことがすぐに分かってしまう。(ちなみに映画は2010年正月に公開予定)
基本的に2004年の「オーケストラのマネジメント」の焼き直しと思料するが、同著でも感じたが、結論の導出が恣意的なのである。データを挙げてはいるが、それらを適切に分析して合理的に導かれた結論ではないので、かなり乱暴な論旨となっている。
感覚やイマジネーションに重きを置いた音楽演奏家が、データを緻密に分析して論理的な作業が要求される学術の世界に興味を持つとどうなるか。
その答えが本書である。
面白いけれども、既存の枠組みを超えない議論 オーケストラの経営学
徐々に衰退していくクラシック音楽市場を支える一角のオーケストラの経営について、元楽団員で経営学の勉強をされた方が、軽妙なタッチで述べた本。
オーケストラの人材(主に音大生)がどのように供給されるのか、オーケストラの顧客獲得戦略、オーケストラの組織の(楽団員による)マネジメントといった点をうまくまとめておられ、大変読みやすい。音楽マニアには食い足りないところもあるだろうが、それは、オーケストラの「経営学」を語ろうとした本なのだから、これで良いと思う。
でも、欠陥が1つ。普段あまり聞くことがないオーケストラの舞台裏に触れたという意味で、内容は面白いけれども、今あるオーケストラという枠組みを超えない議論であることである。つまり、クラシックという音楽文化の裾野を拡充するためのマーケットサイドの色々な取り組みを明示的に議論しているわけではない。トライアル層、リピーター層などと分けているが、消費のパッケージがサプライサイドに偏っている。だから結局、実際のところ、だれがコンサートに来て聞いているのか、だれがその楽団のCDを買っているのかのここ数年の変化はよく分からない(実際、コンサートには行かずとも、CDだけはわんさと買う人々もいるし、そういう人もある特定のオーケストラだけをご愛顧しているわけでもない)。
こうした変化を踏まえなければ、つまり、市場の性格が変わっていることを踏まえなければ、あまり有意義な議論はできないように思える。
もちろん、ホールで音楽を聞かせるのが理想だが、売り込むメディアは数多ある。タイトルが経営学とはいえ、市場についての考察は、この本で議論されている範囲でいいのだろうか。i-pod全盛で音楽のバラ売りが主体の時代に、顧客をつきなみな音楽愛好家だけと考えたり、競合を他のオーケストラとするだけのマーケティング戦略の考え方で解決の糸口は見えるのだろうか。ふつふつと疑問がわいてきた。
そして、オーケストラ側のマネジメントに対する筆者の提案も同様である。プロの楽団員の持つ知識の共有化をどう図り、個人の枠を超えたよりダイナミックなイノベーションを生み出せるかがカギだといっておられるようだが、オーケストラのメンバーはこれまでも色々と取り組んできたのではないか。楽団員と指揮者の間で色々なプログラム(演目)を考え、オーケストラの能力を少しずつ拡大してきたはずである。楽団員の技術は暗黙知が多いと片付けるのは早いような気がする。例えば、色々なオケの演目を時系列で見るだけでも、各オーケストラの取り組みの跡が見られるような気がする。こうした努力がなされても、なぜまだ問題が解消されずにいるのか、もっと突っ込んで書いて欲しいと思った。
いずれにしても、筆者のオーケストラへの愛情は伝わってくるが、残念ながら、この本を読んで一般のビジネスでの創造性について大きな示唆を得られるわけではない。筆者には申し訳ないが、逆に既存の枠組みを超えられない難しさがひしひしと伝わってきてしまった。アップルのi-podにmp.3プレーヤー市場を席巻されてしまったソニーの元トップが、同書について「組織の『統制』と『創造』を引き出す術を明らかにしている」と推薦文を書いているのが最大の皮肉でもある(この元トップは個人的に好きだし、すばらしい方だと思うけれども)。
最後に、それなりの伝統を持つ東洋経済という出版社が、こうした経済学や経営学で読み解くという柔らかなシリーズを出す時代である(個人的には新書向きの企画だと思うが)。だから、筆者の言う「知の転換」をもっと別の次元で問い直される必要性を感じた。つまり、組織内の知だけではなく、外部市場における知の転換、さらに、その両者の知のインタラクションによる変化を問うことが大事なのだと思う。音楽マーケットは大きく変わってきていると思われるからである。
価値ある一冊 オーケストラの経営学
オーケストラの顧客層を増やすためには「トライアル層」を獲得し、「リピーター層」「寄付者層」に育てていくことが大切、という著者の主張が、現場経験者ならではの実感をもってとてもストレートに伝わってくる。芸術と経営学の両方をプロとして専門的に取り組む著者が、一般のビジネスマンにも興味が持てるような豊富な例と注釈つきでわかりやすく日本のオーケストラの現状と課題認識を提起する本書は、芸術と経営学の橋渡しをするとても価値ある一冊だと思う。
入門書 オーケストラの経営学
オーケストラの運営について何も知らない人、オーケストラについて知りたい人、のために書かれた本。その意味で入門書の役割は果たすが、分析は分析になっていないし、学問では全くないので「経営学」というタイトルはおかしい。
本書で提示されている問題は、オーケストラに限らず日本の芸術文化団体やスポーツチームにも共通した「マネジメントがない」という問題である。そんなことは誰でも知っている。著者にはそれが本当に問題なのか、なぜマネジメントがないのに今までやってこれたのか、という構造的な分析を行った上で、これからの日本の芸術・スポーツ団体の経営について検討して頂きたい。とにもかくにも、この分野への関心、投資が減少している事実は大問題と考えるので、こういう本が出たことは無意味ではないだろう。
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