カスタマーレビュー
宗教と科学の狭間で 〜一神聖ローマ皇帝の遺産 魔術の帝国―ルドルフ二世とその世界〈上〉 (ちくま学芸文庫)
史書を寸評することぐらい野暮なことはない。ただでさえ歴史そのものではない言述を歴史記述たらしめようとした歴史家の努力を一言でレビューすることなどできはしない。但、本書の原題が『ルドルフ2世とその世界 1576〜1612年の知的歴史の一研究』であり、序文や原注、充実した索引に伺えるように膨大な文献に基づいていることは確認しておくべきだろう。著者が特に掲げるだけでも、シュルツェ、ベネッケ、ディロン、パーネク、エーバーハルト、カリヴォダ、ヴォツェルカ、アルトファールト、ランダ、ライチュ、ベイエルレ、ネーリング、・・・モスコーニ、L・ルカーチ、ケーラー、スキーボヴァー、カッカーモ、・・・等々史家の研究成果をふんだんに纏め上げたということである。
施政に失策し30年戦争を勃発させてしまった虚弱な皇帝というルドルフ像を、著者が覆そうとしているのも間違いない。政治的に脆弱な君主が単にパトロンとしてのみ有能なはずがない、と。しかし、ならばルドルフが政治的に有能であったか、と言えばそんなことにはならず封建制が動揺し絶対王政としての再建も瓦解していくもっと大きな趨勢として、近年の研究書によくあるように時代と社会に解消される描写になってしまっているかもしれない。
それ以上に、魔術という宗教では捉えきれない自然と社会と意識の噴出する問題を捉え様としていた〈不思議さの整理学〉とでも言うべき科−学が、後世自然の分野のみで抽出、結晶され凱歌を上げる他方では、実は社会と意識の問題でも多面的に探究されていたことそれ自体が圧巻なのである。
怪王の世界観と時代 魔術の帝国―ルドルフ二世とその世界〈上〉 (ちくま学芸文庫)
美術史では名を目にするルドルフ二世とその周囲の群像を見ながら、当時の社会を描き出した大作。
その時代の世相もよくわかるし、美術の世界でどのようなパラダイム転換が行われていたかもわかる。
翻訳も読みやすいし、文庫サイズで手に入りやすくなったのもお薦め。
幻想文学とかが好きな人は特にこの奇妙な王・ルドルフ二世の世界観は楽しめると思う。
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