カスタマーレビュー
中盤は良くても尻切れトンボな結末。 成吉思汗の秘密 新装版 (光文社文庫)
名探偵・神津恭介が、入院中に暇を持て余していたことから、「ジンギスカン=源義経」説に取り組む作品。
作者は、従来の本格派作品、それもカーまがいのオカルト・ムード一辺倒の作品(とくに不可能トリックの創作)に限界を感じたのだろう、それまでの作風を社会派推理に転換するとともに、それまで活躍していた神のごとき名探偵・神津恭介の活躍の場を歴史推理に移行させたのが本書で、歴史推理のはしりであり傑作と称えられている。
中盤はいい。容貌魁偉な大男のジンギスカンと小柄な義経とがいかにして同一人物足りうるか、神津はこれに対する指摘にとある文献の記載から反論する。これが本書の最大のキーで、おそらくその文献を見つけたことから、作者は本書を著そうと思ったのではないかと私は推測している。
が、実に結末は中途半端。竜頭蛇尾とはまさしく本書のようなことを言う。これで納得する人などまずいないだろう。
コンプレックス丸見えの迷・推理小説 成吉思汗の秘密 新装版 (光文社文庫)
無論謎解き推理小説としては無理がある。論証不能な歴史上の出来事にいかに推量を下したとて、専門外の著者が資料を漁ったところで新事実が解明できる訳がないのだから。ただ呆れるのは著者の創造した名探偵・神津恭介に対する著者の異常な感情移入と自己陶酔ぶりであり、およそ高木彬光という男は「何も解っていない奴だ」ということを暴露してしまっている。
いくら名探偵で二枚目、かは知らないが、「仕事と研究以外興味がない石木」みたいな神津みたいな男が「女性の憧れの的」な訳があるか、「女に興味がない」などと吹聴して回る奴に女が興味を示すか、考えたら判りそうなものだが、何も解っていない高木は「こんな男がいたら女にモテモテに違いない」と思い込んでそのモテぶりを過剰に描写するが、いかに若い時の石坂浩二や草刈正雄みたいな顔をしていたって神津恭介みたいな男が現実に存在したら女から総スカン喰らうことは間違いのない事実であり、それを「頭が良くて二枚目なら女にモテモテになるに違いない」と、思い込んだ高木の浅はかさが如実に表れてしまっている。恐らくこれは自分自身の表象であり、一高から京大・中島飛行機とエリートコースを歩んだ自分をオーバーラップ、したいのだろうが、その割に全然女にモテないのを顔のせいにし、「これでツラさえ良かったら女にモテモテなのに」と夢想し、「それで女に興味がない、なんていう男がいたら、カッコいいなあ」と思い込んでこういう歪んだキャラクターを創造したのだ、というのが解かってしまって読んでいて悲しくなる。
大体東大コンプレックスが強すぎるのが高木、という男の顕著な特徴であり、何かと「東大、東大」と無意味に不必要に東大、という言葉を連発するところに彼の異常さが窺える(冒頭神津が入院する件で、「神津さんが東大の外科に入院したと!」と相棒に叫ばせるところなどまさにそれで、どこに入院しようと関係ないと思うが)。その癖「東大ばかりにお天道様が通るもんですか」と、意味もなく憤慨してみせるのもまさにこの男のコンプレックスの根の深さを如実に表しており、何事もうまく行かなかったのを学校のせいにし、「東大さえ出ていれば」というねたみのあからさまなこと、とても京都大学を卒業した人間とも思えない。要は女にモテなかったのを責任転嫁し、「京大卒だからモテなかったんだ」という意識の裏返しであり同じ男として同情に堪えない、のである。「俺はこんなに頭が良いのに、何故女にモテないんだろう」真面目に悩んだ結果神津恭介という、「東大助教授で二枚目で、しかも女に興味がない(彼が思う)カッコいい男」を主人公にして現実から目を背け溜飲を下げていた可哀想な奴、という実像が見えてしまって悲しくなる。
そのコンプレックスをバネにして稀代の流行作家にのし上がった、のは立派、かもしれんが、さてそんなコンプレックスとは無縁な人生を送った私と高木とはどちらの方が幸せな人生を送った、ことになるのか。
歴史ロマンの原点 壮大な輪廻転生 成吉思汗の秘密 新装版 (光文社文庫)
この作品に触れたのはもう数十年前、タイトルに引かれて手に取った小説で初めて高木先生の
名探偵「神津恭介」に出会い、その推理の面白さ、分かり易さに感銘を受けたものでした。
ベッド・ディテクティヴという推理スタイルもユニークで、はるか昔の事件?でも部屋にいながらに
して解き明かしていけるのだなぁと感心しながら読み進んでいきました。
モンゴルの英雄チンギス・ハーンがあの九郎判官、源義経の変身した姿だったという一見荒唐
無稽な俗説を東大の法医学助教授である神津恭介が友人の松下研三と共に入院先のベッドの
上で一歩ずつ検証していきます。この和製ホームズとワトソンコンビはそれ以前から多くの事件
を解決に導いていたのですが、今回初めて純粋な歴史推理の思考実験に挑んだわけです。
兄、頼朝に追われた義経が奥州平泉から北海道への逃避行、更にシベリアを経由してモンゴル
高原にたどり着き諸部族を統合して遂には中国全土、中央ユーラシアにまで及ぶ統一王朝の元
を建国していくという過程は、読んでいるだけでもわくわくする歴史ロマンを感じさせてくれます。
学術的には正確な検証も及ばないスケールの大きすぎる話ですが、義経が蝦夷へ逃れていく
途中の八戸で儲けたという鶴姫の悲恋物語がその後遥かな時空を越えて現代の天城山心中事件
に繋がっていくという展開は衝撃的でした。高木先生もこの事件にある種の啓示を感じて本作
の執筆を決意されたとの事です。
読者としてはもう素直に受け入れられる話で繰り返された悲劇にはただ合掌するのみでした。
日本史、世界史を見渡しても例が無いような一人二役のトリックと壮大な輪廻転生の物語は
読後に良質のドラマを堪能させてもらったという充実感を味あわせてくれます。純粋に歴史
ロマンを楽しみたい方、神津恭介の名推理を体験したいという方に是非お勧めしたい一作です。
読書人生のこの一冊! 成吉思汗の秘密 新装版 (光文社文庫)
大学時代に乱読々書にはまって活字中毒になり現在56歳ですが、現在でも今まで読んだ本で一番のお奨めを推薦して欲しいといわれると躊躇なく「成吉思汗の秘密」と推薦します。荒唐無稽に思える義経=ジンギスカン二人一役説も読後は信者に変身してしまいます。もともとは学術論争だったものを読みやすいように高木彬光先生が名探偵神津恭介と松下研三の名コンビを使いベッドディテクティブ形式の推理小説にしたてたのですが、その筆さばきがあまりに見事でとても面白く一気に読み終えてしまいました。最後の最後「名前の秘密」は著者ともう一方のオリジナル推理のようですが、「あっ!」との驚き!!因みに私の奨めで読んだ二人の読者が完全に信者になってしまいました。それほどの秀作。一読の価値絶対ありとお奨めします。
ロマンス小説 成吉思汗の秘密 新装版 (光文社文庫)
1958年の作品。ジンギスカンは源義経であるという説を解き明かす歴史ミステリー。はっきり言うと、大分無理があります。無理があるのは、一般的には「3歳の子供でも分かる愚論」と言われていた様に作者がこの作品を書く前から分かっている事なので別にいい。歴史論文で無く小説ですからね、面白ければ良いのだ。ただ、このトンデモ説を利用して何か新たなアイデアが詰め込まれていれば良いのだが、そういう物も無い。過去の人が唱えた説を枚挙して主人公が意見を述べるだけである。もちろん結論の出ない類の話である。川口浩探検隊の番組を見ているかの様だ。しかしこの作品が小説として評価される所はロマンスなのです。それも歴史に想いを馳せられる壮大なロマンス。ただ、現代の大人が読むには前述の謎解きや全く論理的で無い説に目が行ってしまって、白けてしまうのです。義経と静御前のロマンスを描くならもっと別の効果的な作品も恐らくあるであろう。ロマンスの部分も時代を超えて3つの例が符号するという事になっているのだが、悪いけどトンデモ話に輪をかけているとしか思えない。作者自身が後書きで「私は山田風太郎君が言った説によれば、頭で書く作家であろうが、この時には心で書く作家になっていた」という告白がありますが、全編通して心で書いてくれたら感動したかもしれないが、主題がもう頭でっかちですからね、心を取ってつけてももうどうしようもならないのだ。大人よりも子供が読んで興奮する類の小説。悪口では無い、私も子供の時に読めたら良かったと思う。
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