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著者は、「心の進化」 は否定しています 先史時代と心の進化 (クロノス選書)
人類の歩み起きてきた進歩は、思考形態が変わったことで引き起こされている。この思考形態はどのように発達してきたかを、遺物を通して研究する学問を認知考古学といい、それは心の起源の研究でもあるという。
現生人類ホモ・サピエンスの登場と結ぶ付けられる 人類革命 は、アフリカで、15万年前に起こった。農業革命をともなう新石器革命は、その後、10万年以上経過して登場した。この膨大な時間差こそが、 「ホモ・サピエンス・パラドックス」であり、これを認知考古学の対象としている。
ミトコンドリアDNA 分析を用いた人類の拡散時期研究によって、現生人類の「出アフリカ」は6万年前に小集団によって遂行されたということが分かったが、このことは大きな意味を持つ。
6万年前には、この現生人類の集団では、アフリカから拡散した時、すでに身体と脳の構造については、遺伝子によって決められたとうり、現代人と同じものが誕生の時点でほぼ出来上がっており、言語能力も子供時代の学習能力も備えていた。人類共通の文化遺産、例えば道具製作能力、火の使用及び調理術、衣服や装飾品を作る技術、船を作る知識と技能、多くの種類の社会的スキルも共有しており、そのおかげで社会内部での交流や他の社会との交易がスムーズに行われていた。
著者は、「ホモ・サピエンス・パラドックス」を解く重要な鍵として、定住による認知機能の発達を上げている。定住によって、幾世代の交配が必要な農業生産や畜産が可能となっていった。
先史学というものの存在さえ知らなかった小生にとっては、まったく新しい洞察を得ることができた。
しかし、6万年前から現代までの人類の歩みは、遺伝子の進化によってもたらされたのではなく、認知という側面でとらえるべきであるという、著者の主張からは、本書の題名 「心の進化」は極めて不適切ではないだろうかと思えたので、☆2つ減点しました。
「心の先史学」を目指す 先史時代と心の進化 (クロノス選書)
前半では考古学、先史学の進歩を概説する。近代に入ってからの考え方の進歩、放射性炭素革命を取り扱う。
後半が本書のハイライトで、人間の精神を対象とする「心の先史学」を目指す。「認知考古学」的アプローチを提示し、単なる「形」を越えた、先史時代の人間の「心」や「精神」を明らかにしようとする。このあたりはもう少し掘り下げてもよかったのではないだろうか。
大家だけあって穏健かつ誠実な書き方である。大変な大発見があるというわけではないが、今日の考古学や先史学の方法や課題がよく理解できる一冊である。
入門者向け 先史時代と心の進化 (クロノス選書)
前半の四割は考古学史。それから社会文化進化と言った概念に触れつつ、残りの半分は「心の先史学」と題されて本題に入る。しかし認知考古学というよりは、心の哲学(特にサール)の影響をいくらか受けた社会考古学といった趣が強いように感じた。
学習や伝達プロセスが重要だと述べているものの、それらにはあまり触れていない。あとがきでも心理学や神経科学の知見を踏まえるのが重要と言ってはいるのだが。普通、認知系の分野では個人の脳の働きに注目するものだが、著者は「心とは脳の中だけにあるのではない」とのべている。これも社会学や人類学の立場に近いだろう。
後半になると根拠や裏付けがある説明と単なる解釈、現在の機能の説明と起源の説明が明確に区別されなくなってくるのがやや残念。端的に現れているのが金銭の節だ。金銭を物質的事実ではなく制度的事実と呼ぶのはいいとして、そう呼んだだけでは金銭の起源について説明していることにはならない。現在の機能の説明をしても起源の説明をしたことにはならない。
初歩的な事実誤認が見られるのも残念。たとえば著者はE.O.ウィルソンが差別主義的だと仄めかすが、実際にはウィルソンは明確に人種間の遺伝的差違は個人間より小さいと述べて差別主義を退けている。mtDNAは組換えしないから自然選択を受けないという説明も問題だ。細かいことを言い出したらキリがないのだろうし、もしかすると訳者の問題かもしれないが。
どうも細かい点ばかり気になるが、おそらく著者とわたしの関心や問題意識が異なるだけだろう。満足できたわけではないが、異なる視点を学ぶという意味では有意義だったのは確か。
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