カスタマーレビュー
形のある何か ウェルカム・ホーム!―児島律子
鷺沢萠の原作をコミック化した作品。印象的なセリフやフレーズをうまく織り込んで、きちんとした良作に仕上がっていると思う。
四十歳をいくつか越えた頃、私の過去には「形のある何か」がまったくないなあ…としみじみ考える児島律子。その彼女が、「形のある何か」をはじめて得た瞬間。その瞬間に至るまでの人生を追って、話は展開する。
途中の展開は、ある意味でたいへん居心地の悪いものである。結婚・家族・自立…あり合せの幸せのイデオロギーから少しずつずれていって、読んでいて何だかスッキリと納得できないように、話が進んでいく。そうした展開にはおそらく、あり合せに回収されない鷺沢萠の意図が反映しているのだろう。
エンディングは、ベタと言えばベタかも知れない。しかし、物語全体のタイトルと関連付けて、これが「形のある何か」だと知るためには、児島律子の半生を費やすこれだけの遍歴が、どうしても必要だったのではないか。
去った娘が帰ってくる。去った母親が帰ってくる。顔を見ることもなかった子が帰ってくる。
それは、ただひたすらに降り注いだ愛の結果として去っていったもの、失ったものの、正しい結末なのだと思う。その場での見返りを期待する行為は、決して愛とは呼べない。愛とはおそらく、待つことに疲れ、もはや待つことすらせずになお待つことと、切り離せない行為なのであろう。
鷺沢萠について書いていたはずなのに、気が付いたら鷲田清一のことを考えている。
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