カスタマーレビュー
イナゴ身重く横たわる 高い城の男 (ハヤカワ文庫 SF 568)
もし第2次世界大戦で枢軸国側が勝っていたらという設定のパラレル・ワールドを舞台にしたP.K.ディックの代表作。設定はどうであれ、作者の関心は常に社会のあり方、その中での人間模様、表面的な欺瞞の裏に隠された真実にあり、本作ではそれらが遺憾なく描かれている。作中で、「もし連合国側が勝っていたら」という設定(史実に近いが微妙に異なる)の小説が登場し、「高い城」はその小説家が立て篭もっている場所を指す。レビュー・タイトルはその小説の名前である(聖書からの引用)。
作中作で描かれる世界もかなり醜いもので、戦争にどちらが勝とうが、作者が物質中心の世界に希望を見い出せないでいる事が分かる。その代わり精神性を重視している点が目立つ。戦勝国のドイツと日本の描写を比較すると、ドイツの政治家が醜悪に描かれるのに対し、日本人の精神性の高さが評価されている。面映い程である。特に領事の田上の武士道的精神性は殊更強調されており、作者をして「私の願いは田上氏がいつまでも記憶に残ることだ」と言わしめている。作者が、易経、禅、伊万里焼など日本、中国の研究を良くしているのにも驚かされる。そして、ユダヤ人が作ったオリジナルの装飾品に新しい世界の創造の光を見る辺り印象的である。それにしても、作中に出て来る次の短歌は英語でどうやって表現したのだろうか ?
「ホトトギス鳴きつる方を眺むればただ有明の月ぞ残れる」
もう"SF"という冠がいらない程の、物質社会への批判と精神性・創造性の重要さを説いた傑作。
SFである。お馬鹿なシュミレーションものではない。 高い城の男 (ハヤカワ文庫 SF 568)
SFから見た第二次世界大戦後の物語。
ちまたに溢れるお馬鹿なシュミレーション物とは訳が違う。
こういう設定を考え、ここまで書き込めるのはさすがにF・K・ディックだと思う。
「If」という事からSFが発想するとすれば、ここまでの作品ができるというお手本。
途中で何度もこれはSF、これは虚構と言い聞かせなければ、
どんどんディックの世界にはまり込みそうになる自分が怖くなった。
そんな事に興味はないという人は結構です。
勝手にお馬鹿で低レベルな「If戦記もの」を読んで憂さ晴らしして下さい。
ディック入門 高い城の男 (ハヤカワ文庫 SF 568)
第2次世界大戦で枢軸国側が勝利した世界。世界は日本とドイツによって二分され、アメリカ合衆国も両国に分割支配された。太平洋沿岸諸州は日本に、東岸諸州はドイツに。
日本が支配する太平洋沿岸諸州では、アメリカ人は日本人に媚びへつらい、尊敬の念すら感じており、日本人は古き良きアメリカの文化に感傷的な憧憬を抱き、その生活様式を模倣していた。
かつての尊厳と誇りを失ったかに思えたアメリカ人だったが、彼らの間で或る小説がはやっていた。その名は『蝗(いなご)身重く横たわる』。『高い城』と呼ばれる要塞のような邸宅に住むといわれるアベンゼンという作家が書いた作品で、第2次世界大戦で日本とドイツが敗れ、アメリカとイギリスが世界を二分するというその小説は、ドイツ側で発禁本とされ、日本側で大ベストセラーとなっていた。
そして、世界情勢は、再び悪化しつつあった。かつての同盟国である日本とドイツが、対立を深めつつあったのだ。平和な世界の水面下で進行していく陰謀・・・・・・
この作品では、ディックのよく用いる「本物/贋物」のテーマが頻繁に現れる。アメリカ美術工芸品のイミテーション、人種・経歴を偽る登場人物たち、偽の歴史を書く『蝗』、そして枢軸側が勝つ虚構の世界・・・・・・ そして不確実な現実を象徴する易経。ディック作品全てに言えることだが、作品の裏に隠されたメタファーを読み解くと、より興味深く読めるだろう。
眩暈にも似た強烈な現実崩壊の感覚を堪能できる傑作。1963年、ヒューゴー最優秀長篇賞受賞。ディックの作品の中では比較的読みやすく、入門としては最適だと思う。
一般読者にも読んでもらいたいSFの傑作 高い城の男 (ハヤカワ文庫 SF 568)
まず物語の構成がすばらしい。
舞台は日本とドイツが勝利した第二次大戦後の世界。その世界では骨董品が流行っているが“偽物”も出回っていて。。。更に連合国が勝った“偽の”歴史を書いている『高い城の男』がいて。。。主人公達は取るに足らない一般市民達。みなそれぞれに悩みを抱えて生きている。彼らが別々の場所でちょっと勇気を出して他人の為に行動する事でバタン!バタン!と世界が良い方向へ。。。そして最後にはナチスの水爆の使用中止を予感させるところまで。。。読み終わって現実に戻っても物語の続きのような気がして前向きな気持ちにさせてくれます。
ディックの作品は“SF”という形をとってはいるがどれも普遍性を備えたものであり、これこそが他のSF作家と一線を画すところだと思う。本書では我々の“認識(精神)”と“物質”のどちらに本質があるのか?がテーマになっている。例えば同一成分のライターでもチャーチルが使ったものとそうでないものに価値の違いを見出す人間の精神って何なんだ?という疑問。
この歴史は本当か 高い城の男 (ハヤカワ文庫 SF 568)
この作品を平行世界ものとする解説を見ることがあるが、 それにはあまり賛成できない。 この作品のテーマは「この歴史は本当か?」である。 ディックが描くのは真実か虚構かであり、ここかあそこかではない。 この歴史が偽物だとしたら、この世界はいったいなんなのか。 そんなめまいこそが、この作品の楽しみ方であろう。
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