?「個性」なる言葉がもてはやされるようになって久しい。「日本人には個性がない」などという声もかなり以前からささやかれ、何とはなしにそんなものかと受け止められてもいる。だが、「そもそも日本人にとって『個』とはなんだろう」とあらためて問われれば、誰もが答えに窮してしまうだろう。
本書は、編著者が所長を務めた国際日本文化研究センターで、約2年間つづいた研究会から生まれた論文集。気鋭の学者10人が、さまざまな角度から「日本文化と個人」について考察をおこなっている。「個」を滅することこそ美徳というイメージでとらえられがちな江戸期の武士に、時として暗君を拘禁する行為が認められていたという指摘、日本独特の風習として長く伝わる「花見」を軸に集団と団結の意識を浮き彫りにする試み、現代日本住宅の間取りが非社会的な若者を生むというオーストラリア人研究者の仮説、日米の作文授業比較を通して、両国が考える個性のちがいを探る論考など、切り口は驚くほど多彩で、斬新な視点に満ちている。従来の日本人観を揺さぶる書物といっても大げさではない。
これらの論文は決して早急な結論を押しつけようとはしない。今まで見過ごされがちだった「日本人と個」の問題に新たな光を投げかけることこそ目的なのだろう。ただ、執筆者に共通しているのは、通説を鵜のみにせず、みずからの頭と目でもう一度考え直そうとする姿勢である。論者たちが意識しているかどうかはともかく、その辺りに新しい時代の「個人」や「個性」といった問題をとらえる手がかりがひそんでいるように思えてならない。(大滝浩太郎)
日本はかつて個人を犠牲にしても、国家に尽くす人間を作ろうとした。西欧では神を信仰しながらも個人が尊重された。問題はことほどさように単純ではない。本書に登場する識者は国際日本文化研究センターの先生方が多く、その道の研究者ばかりなので、それぞれの論点がしっかりしている。例えば「個人の視点からの家族史(落合恵美子)」では、幕末維新期における関東農民のライフコースが論じられている。日本を見るには日本の視点からばかりではなく、西欧的家族観で見直すと、「婿、家付きの娘」もまた違ったものに見えてくる、という面白い報告もある。 日本ならざる文化に晒してみて初めて何が日本なのかも見えてくる(稲賀繁美)と説き、「個」に宿す影に照射している論にも啓発されるものがある(雅)