・中国の瀋陽近辺で生まれた日本人女性である山口淑子は、父の中国人の友人の名目上の養女となり、「李香蘭」との名を贈られる。その後、彼女は、日本軍の宣伝工作に利用され、李香蘭の名で、日本人であることを隠して歌手・女優となる。敗戦後の混乱を切り抜けて日本に帰国。彫刻家のイサム・ノグチと結婚、外交官と再婚し、テレビ番組の司会者を経て、参院議員になった。まるで小説か映画のような劇的な人生である。随所に、彼女の中国への愛情が述べられているが、私には言い訳よりも本心の部分が大きいように感じた。
・私に興味深かったのは、日本人である山口淑子の父が、中国人上流階級と義兄弟となるほど深い親交があったこと。第二次大戦後、彼らは祖国反逆者として処刑されたり、刑務所に入れられたりしている。
・また、中国で成功していた、山口淑子の父、山家亨(報道部勤務の軍人)、川島芳子(清朝王族の王女だが、日本人の養女で、日本軍に協力した)の戦後の没落ぶりも描かれており、興味深い。
・音楽についての話題など、明るい場面もある。私は、本書を読んだ後に彼女の音楽を初めて聴いた。特に「夜来香」(中国人の黎錦光の作曲)は気に入った。1943年の中国にルンバの曲があるとは!上海はやはり大都会だったのだ。
はじめ本書に目を通した時は、何かの冗談ではないかとも感じた。
李香蘭としての山口淑子の運命は、いたずらと呼ぶしかない位、
歴史の波に翻弄されている。
しかし彼女の凡人ではない点は、その波のただ中で
自らのアイデンティティを確立していった点にあろう。
強靭な精神の持ち主でなければ達し得ない偉業だ。
日本人でありながら中国人
李香蘭でありながら山口淑子
そして日本の中国支配の
被害者でありながら加害者でもあるという矛盾した存在。
常人であれば自分を見失ってしまう暴風雨の只中で
彼女は時に熱く、時に氷のように冷静に
世界を、自分自身を見つめてきた。
本書はその記録である。
東洋のマタハリこと川島芳子、名プロデューサーマキノ光雄、
甘粕正彦、川喜多長政など数え上げればきりが無い、
大人物たちの記録もまたこの上なく魅力的である。
元タレント・女優で元参議院議員の「山口淑子」、そして「日満の架け橋」として喧伝された歌う映画女優「李香蘭」。テレビドラマやミュージカルにもなり、あまりに有名になった「李香蘭」の原作が、この「李香蘭 私の半生」です。
ストーリーは遼寧省撫順での無邪気な少女時代、親友リューバ・グリーネッツとの出会いの話から始まる。「中国人少女歌手」として奉天放送局からデビューしたことをきっかけに、満州映画協会の看板女優として・日本語を巧みに操る「親日的中国女優」として日本内地で大人気になり、日中のハザマで翻弄される姿は全くの実話とはいえ、それ自体が映画のようにドラマチックです。
日本敗戦後、軍事法廷で審判を受けるも「李香蘭は日本人山口淑子であり漢奸(売国奴)としての罪は問えない」として無罪になり帰国。そしてその後の話も含めて、激動の時代を生きた女性の記録として読みごたえたっぷりです。また、女性の視点から切り取った昭和史としても貴重なものだと思います。
ただ、戦後、1950年代、香港の映画人に招かれて古装劇(中国の時代物)映画に出演した際「李香蘭」の名前が復活し、レコードも吹きこんでいるはずなのですが、そのことは本書ではほとんど触れられていません。日本に帰国する際に「李香蘭」を捨てた、という構成にしたかったので、「復活」については省いたのかもしれませんが、自伝としてもっと正確に記述していただきたかったとも思います。