ニュートリノ(中性微子)が物質の原子核に当たると、原子核が砕け散り、ハドロンシャワーと呼ばれる粒子の群れが生まれる。その中から物質への透過力が高い中性子だけが物体を貫通し、物体から飛び出してくる。それをプルトニウムと反応させ、核分裂反応を引き起こし核兵器を誘爆させようというもの。まさにSFや初期のミサイル防衛計画で検討されていた中性子ビームによる核兵器無力化を、中性微子ビームで行おうという考え方である。中性子自体には指向性がないので、ビームを作れない。透過力にも限界がある。中性微子は透過力が高く、指向性を持たせることもできるので物質貫通ビームとして地球の裏側の核爆弾を狙い撃ちすることができる。ただし、最終的に生まれるのが中性子線であるため、見方を変えればこの装置自体が地球上のどこにいる人間でも瞬時に殺傷できる大量破壊ビームになるということである。そのため、このニュートリノビーム自体が核爆弾を越える核兵器になりうるということを肝に銘じておくべきである。
また、原文にも書かれているように、1000TeVというエネルギーは、地球の裏側(1万3000km先)の核爆弾に核分裂反応を引き起こすのに必要なエネルギーである。1300km先の核爆弾であれば、その10分の1のエネルギーで事足りる。また、1300km先の核ボタン管理者に照射するのであれば、それよりはるかに低いエネルギー量で可能である。つまり、現状の技術でも核抑止として機能しうるのである。
驚くべき本である。本書に依れば、ニュートリノによって核弾頭に未熟爆発(predetonation:早発性爆発、早爆、早すぎ爆発、などと訳す本も有る)を起こす事によって、核兵器を無力化する事が、原理的には可能だと言ふ(!)。(未熟爆発については、ピーター・グッドチャイルド著・池澤夏樹訳『ヒロシマを壊滅させた男・オッペンハイマー』((新装版)白水社・1995年)の43ページ等にも記述が有る。)ただし、そのニュートリノをビーム化して地球上の核兵器に照射するには、莫大な投資と技術上の困難が有る事をも、本書は、述べて居る。
私などには、本書が語るこの原理の現実性を評価する事は出来無い。だが、本書に依れば、この驚愕の原理は、ニュートリノの専門家である日本の物理学者、菅原寛孝氏が、アメリカで、あの世界的物理学者ハンス・ベーテと対話を重ねる内に着想した物の様である。−−菅原氏は、高エネルギー加速器研究機構で業績を積んだ日本屈指の物理学者であり、本書が述べるこの原理を単なるSF扱いする事は、するべきでない。第二次大戦中、当時、世界の物理学の最先端に在ったドイツの物理学者たちすらが、原爆の製造は、不可能だろうとタカをくくって居た科学史上の故事を思ひ起こせば、安易な技術予測は、傲慢以外の何物でもない事を肝に銘じるべきである。
この原理による核兵器の無力化が可能なら、それが可能であると言ふだけで、核抑止力に代はる新しい抑止力の手段と成る事の意味は重大である。ただし、その一方で、もし、この様な事が本当に可能と成るなら、核のカサが空洞化し、国際情勢を逆に流動化させる危険も有る事を忘れてはならない。
蛇足だが、さいとうたかを氏の劇画『ゴルゴ13』の第221話『シーザーの眼』(1985年2月)において、「核兵器を無力化するビームマイクロスクランブラー」と言ふ発明が取り上げられて居る。今から20年前、さいとう氏は、どの様にして、この様な話を着想されたのだろうか?
(西岡昌紀・内科医/広島と長崎に原爆が投下されて60年目の秋に/原子力の日に)
この装置の致命的な弱点は、ピンポイントで照射しないといけないというもう当てるのが至難の無用の長物ダメ装置。そんな爆弾がどれぐらいの規模でどこにあるという詳細な情報があれば、特殊部隊を編成して、現地に潜入して、制圧した方が早そう(戦争が好きなわけではないよ)。
そんな精度の高い情報なんて無いだろうし、リアルタイムで爆弾なんて移動できるんだから、昨日の情報では情報通りの場所でも、次の日に移動させてあったらもう何の効果も無い。
さらに著者自身も書いているがアタッシュケースやリュックサックタイプの超小型核爆弾を歩兵が背負って進軍してきたらどう対処するんだ?
次。
未熟爆発させるというが、なんでも核分裂を3%程度の割合で人為的に起こして、爆弾の本体自体は無力化するというが、実際にやってみないと3%でも爆弾の中で核分裂は起きるのだから何が起こるかはやってみないとまだ不確定要素が多すぎるという点で×。もし暴走したらどう責任取るんだ?
その次。
この装置を作動させるのにはすごい強度の金属や超強力な磁石がいると言うが、その完成はいつになるか全く分からないらしい。だから学会誌で発表しても没になるわけだ。ルナ・チタニウム合金でも作らない限りできないでしょう。
ついでに。
この装置は電気を恐ろしく食うらしい。一度動かすにも原発をいっぱい作らないとダメ。そしたらまた廃棄物の山に埋もれて、日本は放射性廃棄物の国となるでしょう。
きりがないのでもう一つ。
この著者は広島・長崎をはじめとする平和への祈りから起きた運動を否定している。被爆国である日本は祈ることから行動を始めても良いと僕は思う。それをこの人は祈りでは何の解決にもならんと切り捨てている。その時点で人格を疑ってしまう。
思いつきだけはすごいんだが、実際は空想科学読本の世界だ。